| Topへ戻る |
|
||||||
| 一般的な宝石鑑別検査には低倍率(通常、10倍〜60倍程度)の宝石顕微鏡が用いられています。いうまでもなく、宝石内部を観察するためです。インクルージョンや成長組織は宝石である結晶が成長した環境あるいは履歴を反映しているため、これらを観察することによってその起源を明らかにすることが可能になるのです。 ラボラトリーの技法として結晶内部の欠陥を観察する有効な一手段に、X線回折トポグラフィが知られており、主に半導体材料や鉱物検査等に利用されています。ところが、この方法は、操作に始まり得られた像の解析まで高度な技術が要求される上、試料サイズ等にも大きな制約があることから、宝石鑑別のライン上に導入するには適当とはいえません。 これに対して、同様な観察を可能にした顕微法であるレーザー・トモグラフィは、操作が比較的容易で、しかも宝石試料に対するダメージもまったく危惧することがありません。 ◆レーザー・トモグラフィ 光学顕微鏡では直接実態を見ることができない微小物質も、光速を当てた時に生じるチンダル現象を利用すれば観察が可能となります。このような光散乱法を利用した観察の歴史は古く、1903年にはすでに限外顕微鏡を用いて、光学顕微鏡の解像力をはるかに超える微小散乱体の存在が確認されています。 1970年代後半には学習院大学の守矢一男博士等の研究グループが【光散乱トモグラフィ】と名付けた細く絞ったレーザー・ビームを試料内に走査させ、三次元的な断層写真を得る方法を開発しました。この方法には以下に示すような優れた長所があり、透明結晶の不均一性の観察には最適です。全宝協技術研究室ではこの光散乱トモグラフィの宝石鑑別への応用にいち早く着手し、守矢博士の協力も得て1983年には実用レベルに到達することが出来ました。 1)細く絞ったレーザー・ビームを使用するため、迷光が取り除かれ、結晶欠陥などのごく微弱な散乱像も、そのままの状態で捕らえることが出来ます。守矢博士等の研究によると、サブミクロン・サイズの光散乱体の外に成長縞、成長分域境界やディスロケーション(線状欠陥)などの検知が可能です。しかし、結晶学的方位を無視してさまざまな方向にカットされた多数のファセットよりなる宝石を観察するには、レーザー光の取り入れに工夫が必要となります。これらの多くのファセット表面からの反射を防ぎ、レーザー・ビームを効率よくサンプル石内に入射させるために、サンプルと出来る限り近似する屈折率の浸液中に浸漬した状態で観察する必要があります。例えば、コランダム(屈折率1.76〜1.77)ならヨウ化メチレン(室温での屈折率1.745程度)が適していますが、残念ながらダイヤモンド(屈折率2.417)には適当な浸液がありません。 |
2)レーザー・ビームをサンプル中の一定のレベルでゆっくりと走査しながら、内部の断層写真(トモグラフ)を撮影しますが、サンプル内でビームの走査深度を変化させることで、任意の断面の映像を得ることが出来ます。また、サンプルの方位を変えて同様に観察すれば、結晶の不均一性を三次元的に捉えることが出来ます。 3)レーザー・トモグラフィは、非常に微弱な散乱像を観察することが出来ますが、それを鮮明に記録写真に撮ることも可能です。この場合、数十倍程度の光学的倍率ですが、宝石に関して言えば、この程度の低倍率のほうが石全体の構造を観察するのに適しています。 4)レーザー源には各種の波長を選択することが可能ですが、このトモグラフィには波長488nmのアルゴンイオン・レーザー(青色)が適しています。トモグラフィによって結晶欠陥などの散乱像が明瞭に捉えられるだけではなく、アルゴン・レーザーにより励起される蛍光像の観察も期待できるからです。いうなれば散乱トモグラフと蛍光トモグラフの観察を同時に得られることになります。もう少し詳しく説明しますと、蛍光とは外部から光などのエネルギーを受けることによって発光中心の電子が励起し、基底状態に戻るときにエネルギーを放出(発光)する現象です。この時、発光する光の波長は励起源の波長よりも長くなります。したがって、可視光の発光(蛍光)を観察するためには波長の短い青色光が有利となるのです。青色光で励起すると緑、黄色、オレンジや赤色の蛍光色の観察が可能となります。逆に赤色のレーザーで励起しますと、青色〜オレンジ色までの波長の発光は期待できませんし、赤色レーザー中の赤色蛍光は非常に観察し辛くなります。
|
|||||
| ◆各種宝石の観察例 レーザー・トモグラフィによって得られる散乱像や蛍光像の解釈にはある程度の結晶学的知識とより多くの観察実績が重要となります。全宝協技術研究室ではこの知識レベル向上のため、研究会を発足させて地道な研究活動を続けて参りました。またレーザー・トモグラフィを導入して20年以上の間、宝石種ごとに豊富なデータを蓄積することが出来ました。このような背景の下、現状ではコランダムの加熱・未加熱の判断には欠くことの出来ない手法として確立することが出来たと考えています。 それでは研究を開始した1980年代前半に撮影した写真から、いくつかの観察例をご紹介いたします。 |
Photo-2aは天然アレキサンドライトに見られるセクター・ゾーニングの一例です。天然の結晶は通常、このようにある程度複雑な分域構造を有します。これに対してPhoto-2bは当時、鑑別が極めて困難と言われていたフラックス法(クリエーティブ・クリスタル社製)の合成アレキサンドライトです。種結晶を用いて一定の環境下で育成されるため、極めて均一な累帯構造が観察できます。 Photo-3aは天然アメシストに見られるブリュースター・フリンジに対応した散乱像です。これはブラジル双晶に起因した構造で、今日でも天然の証と考えることが出来ます。 Photo-3bは当時生産されていた日本製の合成アメシストです。宝石顕微鏡ではほとんど捉えることの出来ない種結晶が明瞭に認められます。1980年頃はアメシストの天然・合成の鑑別に確たる手法がなかった時代ですが、レーザー・トモグラフィは両者の構造的相違をとらえる手法としてすでに実用レベルにありました。 |
|||||||||
|
||||||||||
| 次のページ | ||||||||||