◆ルビーの加熱エンハンスメント
 色調の改善を目的とした加熱の歴史は古く、現在は、ごく日常的な手段として行われている宝石も多く見られます。中でもコランダムはその代表例ですが、他の宝石種に比べて加熱温度が高く、さらに今日では必要な色の改良効果が得られるまで、幾度となく繰り返して加熱が行われるようです。繰り返される高温での加熱は、コランダムの結晶構造に熱歪みを与え、結晶欠陥や不純物の分布状態を大きく変化させます。
 天然ルビーに普遍的な内包物は離溶によるルチル・インクルージョンです。拡大下においてルチルが細長い針状として観察される場合は、少なくてもルチルの融点よりも高温の加熱は蒙っていないことになります。
ただし、ルビー中でルチルが針状の形態をとどめているのは極めて稀で、未加熱であってもたいていは点状やクラウド状です。レーザー・トモグラフィでこのクラウド状インクルージョンをとらえると、未加熱石ではその微小散乱体の分布領域と非分布領域の境界はあいまいですが(Photo-4,5)、加熱石では微小散乱体がある領域に凝集してシャープな分域境界を示すようになります(Photo-6,7)
Photo-4(左),5(右):未加熱ルビーの微小散乱体
Photo-6(左),7(右):加熱ルビーの明瞭な分域境界を示す微小散乱体



 時として加熱ルビーには、石全体に発光する赤色蛍光の中に一部オレンジ色の蛍光むらが現われることがあります(Photo-8)。これまでのところ、このような例は未加熱石には見られません。
 一般的な宝石顕微鏡下では見ることの出来ない線状欠陥(ディスロケーション)が、しばしば加熱石のレーザー・トモグラフィに見られることがあります。これらは結晶内のある平面から発生した線状の束として観察され、ほとんどはカット石の外縁に達しています(Photo-9,10,11)。線状欠陥は結晶の成長過程における発生に加え、その後の外力により移動することが知られています。したがって、もともと存在していた結晶の不均一な部分に、おそらく加熱による後天的なストレスが生じ、それを解消するために線状欠陥が外側に向かって移動し、増殖したものと思われます。
Photo-8:加熱ルビーに見られるオレンジ色の蛍光むら
Photo-9(左),10(中),11(右):加熱ルビーに見られる線状欠陥
前のページ 次のページ


Copyright ©2004 Gemmological Association of All Japan Co., Ltd. All Rights Reserved.